札幌医科大学 病理学第二講座
大学院について
病理学とは
病理学とは,本来そもそも・・,という話から始めるつもりは毛頭ありません.
それは,みなさまの頭の中にある十人十色の学問で構いません.しかし,少しだけ,私の話しにお付き合いください.
どんな大人たちも,はじめは子供だった
ます,私から,みなさんに贈る言葉です.
本来であれば,中国古典から引用するのが常套手段ではありますが,そもそもの私の浅学さゆえに,そのような単語を理解できないばかりか,記憶できないため,お伝えできませんので,お許し願いたい.
私の座右の銘は,「星の王子さま(Le Petit Prince)」(Antoine de Saint-Exup’ery,サン・テグジュベリ著)
の一節にある印象的な以下の言葉です.
原文は,フランス語で,理解できないため,原文に近い英語と,私の日本語訳を記載します.
All grown-ups started life as child
But not many of them remember that
どんな大人たちも,はじめは子どもだった
でも,そのことを覚えている大人はほとんどいない
アマゾンドットコムより引用
私を含め,医師,あるいは,研究者は,みな小賢しいことを発言し,あたかも偉そうに振る舞います.本当に,それが正しいのでしょうか?
しかし,「星の王子さま」は,以下のような素敵な人生の教訓を教えてくれます.
(参考出典:ハフポスト,2016年5月19日版)
1.子供のときの独創性を,もういちど取り戻そう
2.まじめになりすぎず,ちょっとしたことを楽しもう
3.幸せになるため,自分の時間を持とう
4.探検する勇気を持とう
5.なにかを決めるときには,心に従おう
独創性の豊かなひとは,星の王子さまによく似ている.空想にふけり,新しい経験を求め,核心をついた質問をするひと,のことだと思います.
大人になっても,子供心のあどけなさを失わずにいるひとは,それだけ,物事をみる目に曇りがないはずです.曇りがないだけで,みえる風景は清らかでしょう.
近代の生命科学研究の潮流
近年の生命科学は,華々しく,学問進歩の象徴のようにみえます.医学系を含む生命科学の研究者数は,他の科学領域と比べて極端に多いのです.
しかし,ごく少数の研究者が,権力と金(かね)にものをいわせ,力技で成果を出す.そこには,新しい仮説はなく,ましてや動機すらない.なかば自動的に流行の研究分野に群がり,高額な研究機器がシステムの指示するまま無機質な数値をアウトプットするだけです.
これは,もう学問のバブルであり,私にはたいへん危惧すべき状況にみえます.私は,豊富な資金力と速さにものをいわせる点数稼ぎに加担し,正当化する意思は毛頭ありません.
ギリシアの哲人の例をあげるまでもなく,学問の起点には,純粋な“知”への志向があるべきだと信じています.
さあ,始めましょう
みなさんの心の中に住んでいる「王子さま」に聞いてみましょう.躊躇する必要はありません.私たちの教室のドアーは,いつもオープンです.
病理では,病気の原因や発生機序の解明や,病気の診断を確定することをめざします.病理学は,長い歴史をもつ学問で,臨床医学と共同しながら医学の基盤を形作ってきました.
現代の病理学は、従来からの顕微鏡を用いる形態学的方法だけではなく,細胞生物学や分子生物学を含め,さまざまな手法を駆使しています.
私たちは,病気において,どのような細胞が,どのように相互作用しているのか,いわば,社会のなかの細胞という視点を常に念頭におきながら,未解決の病理学的テーマに取り組んでいきたいと考えています.
大学院生になりたい君へ
大学院生は,大人です.したがって,本人の意思をなによりも尊重します.
私たちは,実験技術を伝えることはできますが,研究の喜びは,自分の研究のなかにあります.作業仮説を立て、その先にある光明を最初にみることができる研究者の特権を楽しみましょう.
必要なのは,みなさんの熱い気持ちと,継続する強い意思のみです.
最後に
私たち基礎研究者は,現時点で,未知数で,いまだ日の目をみない(一見,地味な)研究を,(しかし)地道に行っています.
基礎研究より得られた研究成果は,いますぐに役に立ちません.しかし,将来的に,病態理解における古い医学のパラダイムを転換し,新しい医学,あるいは,医療の展開に直結するものと確信しています.
私たちには,若い君たちの情熱とエネルギーが必要なのです
今日,その一歩を踏み出しましょう